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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)773号 判決 1999年5月31日

原告

全日本港湾労働組合関西地方阪神支部

右代表者執行委員長

藤本弘和

原告

足立賢二

右両名訴訟代理人弁護士

伊賀興一

被告

阪神高速道路公団

右代表者理事長

北村廣太郎

右訴訟代理人弁護士

畑守人

中川克己

被告

阪神交通管理株式会社

右代表者代表取締役

藤岡格

右訴訟代理人弁護士

福島正

松下守男

主文

一  被告阪神交通管理株式会社は、原告全日本港湾労働組合関西地方阪神支部に対し、五〇万円及びこれに対する平成七年二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告足立賢二と被告阪神交通管理株式会社との間において、原告足立賢二が被告阪神交通管理株式会社の第一交通管理部所属の従業員たる地位にあることを確認する。

三  被告阪神交通管理株式会社は、原告足立賢二に対し、一五六万七〇八六円及びうち五〇万円に対する平成七年二月六日から、うち一〇六万七〇八六円に対する平成八年二月二一日から各支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、原告全日本港湾労働組合関西地方阪神支部に生じた費用の一〇分の九、被告阪神高速道路公団に生じた費用の二分の一及び被告阪神交通管理株式会社に生じた費用の五分の二を原告全日本港湾労働組合関西地方阪神支部の負担とし、原告足立賢二に生じた費用の四分の三、被告阪神高速道路公団に生じた費用の二分の一及び被告阪神交通管理株式会社に生じた費用の五分の二を原告足立賢二の負担とし、原告全日本港湾労働組合関西地方阪神支部に生じたその余の費用、原告足立賢二に生じたその余の費用及び被告阪神交通管理株式会社に生じたその余の費用を被告阪神交通管理株式会社の負担とする。

六  この判決は、第一項及び第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  主文第二項同旨

二  被告らは、各自、原告全日本港湾労働組合関西地方阪神支部に対して一〇〇〇万円、原告足立賢二に対して三〇〇万円、並びに右各金員に対する平成七年二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告阪神交通管理株式会社は、原告足立賢二に対し、一〇六万七〇八六円及びこれに対する平成八年二月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

原告足立賢二(以下「原告足立」という。)は、被告阪神交通管理株式会社(以下「被告会社」という。)の従業員であり、原告全日本港湾労働組合関西地方阪神支部(以下「原告組合」という。)は、同人が所属する労働組合である。本件は、別訴和解により、被告両名が、原告足立に対し、休憩時間確保のための勤務体制の改善義務を、原告両名に対し、勤務時間割の変更について協議すべき義務をそれぞれ負ったにもかかわらず、被告らが、原告らと協議せずに、休憩時間の実質確保ができない勤務時間割を作成・実施し、これに反対した原告足立を別の勤務地に配転したのがいずれも不当労働行為であり、不法行為に当たるとして、原告足立が、被告会社に対し、右配転命令前の勤務地における従業員たる地位の確認と右配転命令に従わないことを理由とする賃金カットにより生じた未払賃金の支払を、原告らが、被告らに対し、不法行為による損害賠償(慰謝料等)をそれぞれ求める事案である。

一  前提事実(いずれも当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。)

1  当事者等

(一) 原告ら

原告組合は、阪神間の港湾、運輸関連労働者等で組織された産業別労働組合である。原告組合は、昭和六三年一二月一四日、被告会社内に原告組合の阪神交通管理分会(以下「分会」という。)を組織したが、本件訴訟提起時点(平成八年二月)における分会の構成員は原告足立のみである。

原告足立は、分会の分会長であり、被告会社が設立された当時から交通管理業務に従事する一期生の一人である。

(二) 被告ら

被告阪神高速道路公団(以下「被告公団」という。)は、大阪府及び兵庫県内の大阪市及び神戸市周辺地域において、有料の自動車専用道路の建設及び管理を行うことを目的として、昭和三七年三月二九日に公布された阪神高速道路公団法に基づいて、同年五月一日に設立された公益法人である。

被告会社は、被告公団との随意契約に基づき、公団業務のうち、交通管理業務、高速道路料金の徴収業務等を行う目的で、昭和六二年一月二〇日に設立された株式会社である。

被告会社は、被告公団の四ツ橋交通管理所(大阪市西区南堀江<番地略>所在)内に第一交通管理部、西淀川交通管理所(大阪市西淀川区大和田<番地略>所在)内に第二交通管理部、大阪管理部内に第三交通管理部をそれぞれ配置して右委託契約による業務を処理している。

(三) 委託業務の内容

交通管理業務とは、被告会社が被告公団から委託された、阪神高速道路における円滑な交通の阻害要因となる交通事故や故障車両、法令違反車両、落下物等を早期に発見、除去し、もって安全で円滑な交通を確保するための業務である。交通管理業務は、さらに、「管制業務」、「機動業務」及び「取締業務」に分かれる。「管制業務」とは、交通の状況についての具体的把握を行い、関係諸機関に必要な連絡等を行うものである。「機動業務」とは、道路上での交通の円滑な流れを確保するものである。「取締業務」とは、法令違反車両等の取締である(ただし、法律上の権限の問題で補助に止まると位置づけられる場合もある)。

第一交通管理部は機動業務を、第二交通管理部は取締業務を中心に行うが、いずれも阪神高速道路上の交通管理業務の実作業として、機動業務及び取締業務の双方を行う。

具体的には、阪神高速道路環状線、同池田線、同守口線、同東大阪線、同松原線、同堺線、同大阪港線、同西大阪線及び同神戸線の大阪側における、①巡回、②警察による暴走族取締の援助、③法令違反車両等の取締であって、第一交通管理部は①及び②、第二交通管理部は①及び③を担当する。

(四) 労働契約の内容

原告足立と被告会社の労働契約は、昭和六二年に被告会社が訴外阪神高速道路協会(以下「協会」という。)の交通管理業務を引き継いだ際に、協会と原告足立との間で昭和五七年八月に締結されていた契約を、そのまま被告会社に承継したものである。協会は、昭和五七年に原告足立が右労働契約を締結した際、同人に対し、当面は交通管理業務のうち機動業務を中心に担当するが、管制業務及び取締業務も段階的に担当することになることを説明しており、管制業務及び取締業務を含めた交通管理業務全部が労働契約の内容になっていた。

2  休憩時間の問題に関する前訴及び和解

阪神高速道路は二四時間使用提供され、交通管理業務も二四時間体制である。被告公団は、交通管理業務の定期巡回の時間帯及びいつ発生するか分からない事故等(以下、これを「事案発生」という。)に備えた待機時間帯を示した「委託巡回計画実施表」を作成し、被告会社は、これに従った勤務時間割を作成している。この勤務時間割において、交通管理隊員には日勤・昼勤(九時から一八時まで拘束)で一時間、夜勤(一六時から翌日一〇時まで拘束)で四時間の無給の休憩時間が設定されていた。

しかし、右休憩時間内であっても、実際には、原告足立ら交通管理隊員は、被告会社からの巡回の出動依頼等に応えなければならない状況にあったことから、分会は、昭和六三年一二月一四日以降、右休憩時間は待機就労に従事させられているのと同じであり、労働基準法が要求する休憩時間を与えていないと主張して団体交渉を要求し、被告会社との間で団体交渉がもたれるに至ったものの、解決に至らず、原告足立ら分会員二〇名(当時)は、平成元年九月、被告らを相手に、昭和六二年二月から平成元年三月までの期間についての前記休憩時間の待機就労に対する時間外手当及びそれに対する付加金等の支払を求める訴えを提起した(大阪地方裁判所平成元年(ワ)第七二六八号事件、以下「前訴」という。)。

前訴においては、原告足立を含む被告会社従業員五名、原告組合及び被告ら両名との間で、平成六年一一月二四日、左記和解条項(一部省略)のとおりの和解が成立した(以下「前訴和解」という。)。なお、和解条項中の「補勤体制」とは、休憩時間における巡回出動依頼にともなう待機を解消するために、交通管理隊員の特定の班の休憩時間中は、休憩を取っていない他の班の隊員(以下「補勤隊」という。)を待機に充てる体制のことである。そして、補勤体制の確立を柱とする具体的な勤務時間割については和解条項に盛り込まず、引き続き被告会社及び原告らで協議して詰める作業をすることとされている。

(一) 原告らと被告会社間

(1) 原告らと被告会社は、被告会社交通管理隊隊員の休憩時間中に巡回出動依頼がある情況は労働基準法上好ましくないという点で双方の認識が一致していることを確認する。

(2) 被告会社は、前項記載の問題の可及的解消に向けて補勤体制確立を柱とする改善策を提案・実施することを被告会社の方針として確認し、この点については、原告足立及び同原告が加入する全日本港湾労働組合関西地方阪神支部と本和解に引き続き必要に応じて協議することを確認する。

(3) 被告会社は、被告会社交通管理隊の勤務が、一日単位の輪番制を原則として、隊員間の公平に配慮した上で運用されるべきことを確認する。

(4) 被告会社は、平成七年一月一日以降原告足立に対して予め勤務時間割によって指定していた休憩の時刻に変更があった場合には一回の変更あたり一〇〇〇円の手当を支給することを約束する。

(二) 原告らと被告公団間

(1) 被告公団は、原告らに対し、原告らと被告会社との間に前項記載の和解が成立したことを確認する。

(2) 原告らは被告公団に対する訴えを取り下げ、被告公団はこれに同意する。

3  前訴和解成立後

(一) 補勤体制の実現

前訴和解成立後、被告会社、原告組合、原告足立の三者は、平成七年一月一日から実施するべき勤務時間割の設定について協議した。さらに被告らが協議の上、被告公団が「委託巡回計画実施表」を、被告会社が平成七年一月一日付勤務時間割(別紙一「1日の標準勤務」と題する書面)をそれぞれ作成した。それらには、原告らが要求していた補勤体制が含まれていた。

(二) 阪神・淡路大震災

平成七年一月一七日、阪神・淡路大震災が発生し、阪神高速道路は各所に大きな被害を受けた。被告会社は、同月一八日、交通管理隊員の昼勤一時間、夜勤四時間の休憩時間を含む全拘束時間の待機を指示し、全拘束時間に対する賃金を支払う措置を採った。

(三) 平成七年二月六日付での勤務時間割の変更

同年二月四日には、神戸線を除き、阪神高速道路はほぼ復旧した。その状況を受け、同日、被告会社第一交通管理部長の堤田征支郎(以下「堤田」という。)は、原告足立に対し、同年二月六日付の「災害に伴う勤務時間割変更分」と題する書面(別紙二)を示した。

平成七年二月六日付の右勤務時間割(以下「本件時間割」という。)の内容は、被災した神戸線進入制限のための阿波座勤務という暫定的措置が加わる反面、前記平成七年一月一日付勤務時間割(別紙一)において設定されている補勤体制を解消するものであった。

なお、被告会社は、同年二月一一日付で再び補勤体制を設定した勤務時間割を実施している(別紙三)。

(四) 平成七年二月一〇日付配転命令

原告足立は、本件勤務時間割変更の内容に対して抗議した。これに対して、被告会社は、原告足立に対し、第一交通管理部(四ツ橋交通管理所)から第二交通管理部(西淀川交通管理所)への異動もやむを得ない旨打診し、平成七年二月一〇日付で右内容の配転命令を発した(以下「本件配転命令」という。)。被告会社は、原告足立と交替する形で、当時第二交通管理部勤務であった訴外中北某(以下「中北」という。)を第一交通管理部に異動させた。

4  本件配転命令後の賃金カット

本件配転命令後、原告足立は第二交通管理部での就労を拒否すると共に、本件配転命令の無効を主張して、仮処分申請した。他方、被告会社は、原告足立に対して第二交通管理部での不就労を理由として平成七年三月二五日支払分以降の賃金を同年六月までの四か月にわたってカットした。右仮処分命令申立事件において、原告足立には、本件配転命令に従って第二交通管理部(西淀川交通管理所)で勤務する義務のないことが認められたが、被告会社は、右未払賃金を支払わない。その金額は、平成六年一二月から平成七年二月までの賃金手取額の平均と同年三月以降の現実の手取額との差額の合計である一〇六万七〇八六円となる。

二  争点

1  本件時間割への変更が不法行為となるか否か。

(一) 前訴和解によって、

(1) 被告らは、原告足立を含む交通管理隊員に対し、補勤体制の確立により休憩時間を確保できるように、勤務体制を改善する義務を負ったか。

(2) 被告会社は、原告両名に対して、本件時間割への変更についても、事前に協議する義務を負ったか。

(3) 被告公団は、原告両名に対し、補勤体制の確立を含む勤務時間の改善について、協議すべき義務を負ったか。

(二) 本件時間割への変更に際して、被告会社は原告らと協議したか。右協議がされなかったとすれば、これが不法行為となるか。

2  本件配転命令及びそれに基づく賃金カットの効力と不法行為の成否

(一) 本件配転命令は、不当労働行為として無効か。また本件配転命令違反(配転先での不就労)を理由とする賃金カットの効力

(二) 本件配転命令が、無効である場合における不法行為の成否

3  被告会社のなした本件時間割への変更及び本件配転命令についての被告公団の共謀の有無。

4  右各不法行為による原告らの損害額

三  争点に関する当事者の主張

1  争点1(一)について

(一) 原告らの主張

(1) 前訴和解が成立する前の被告会社の勤務時間割では、休憩時間であっても、事案発生による臨時出動の依頼などがあり、実際には原告足立ら交通管理隊員は、休憩時間であっても待機就労を強制されていた。

前訴和解において、被告らは、従前の勤務体制が労働基準法違反の状態であることを確認したのであるから(和解条項(一)(1)及び同(2)並びに(二)(1))、それぞれの委託契約上の立場に従い、補勤体制の確立を柱とする改善策を実施することが義務づけられたというべきである。したがって、原告らは、前訴和解によって、補勤体制によって休憩時間を確保するよう改善される利益を有するに至った。

(2) 同時に、その手続的担保として、被告会社は、原告ら両名との間で勤務時間割作成について協議することが義務づけられており(和解条項(一)(2))、少なくとも被告会社と原告らとの間で勤務時間割の作成、変更に関する協議義務、団体交渉応諾義務を定める合意が成立したというべきである。前訴和解は、訴訟当事者ではなかった原告組合を含めて被告会社が労働基準法違反を可及的速やかに改善するために補勤体制を採ることを内容として成立したものであるから、労働協約の性質を有する。

また、被告公団も前訴和解当事者として、右のような被告会社の協議義務が成立したことを確認したのであるから(和解条項(二)(1))、被告公団も、被告会社を通じてもしくは直接、原告組合との間で右事項に関し協議する義務を負うこととなった。

(二) 被告会社の主張

(1) 前訴和解条項中の(一)(2)が「被告会社は、問題の可及的解消に向けて補勤体制確立を柱とする改善策を提案・実施することを……方針として確認する。」とされていることから明らかなように、補勤体制の確立を柱とする勤務体制の改善策は、まさに被告会社の方針として確認されたにすぎず、法的な義務を含まない。したがって、具体的な業務上の合理性がないにもかかわらず被告会社が補勤体制を解消したとしても、その解消について権限濫用の問題が発生することがあり得ても、原告足立の補勤隊により休憩時間を確保するよう改善される利益を侵害するということはあり得ない。

(2) 前訴和解において、協議は「必要に応じて」行うこととされた。前訴和解成立時において、当事者間で具体的な協議の対象と考えられていたのは、本来和解の内容となるべき当面の勤務時間割(平成七年一月一日付勤務時間割)の作成や補勤体制の確立という被告会社の方針を放棄するような場合であって、本件勤務時間割のように個々の勤務時間割の作成についてまで被告会社が、原告らとの協議義務を負っていたわけではない。

被告会社による休憩時間の指示は、休憩時間の長さを就業規則本文によって定め、一応の予定としての休憩時間の時刻を一般に勤務時間割によって定め、さらに具体的な業務の都合によりこの休憩時間の時刻を変更することがありうるという構造になっている(被告会社交通管理部社員就業規則七条、八条)。したがって、勤務時間割によって決められた休憩時間の内容はそもそも固定性が極めて低く、一般的に勤務時間割を変更することについて、特に原告らとの協議という手続的な条件を付しなければならないものではない。

勤務時間割の設定が労働条件にかかわる問題であり、これが義務的団体交渉事項であることは確かであるが、そのことと、前訴和解で個々の勤務時間割の変更が事前の協議事項とされたかどうかは全く別のことである。

(三) 被告公団の主張

前訴和解において、被告公団は、「原告らと被告会社との間に前項記載の和解が成立した」という事実を、原告らに対して確認したにすぎず、原告らに対して何ら具体的な義務を創設、確認したものではない。

2  争点1(二)について

(一) 原告らの主張

補勤隊が被告らにおいて、休憩時間帯の待機就労という労働基準法違反の状況を可及的に解消するための手段として前訴和解において位置づけられ、その履行が合意されており、現に平成七年一月一日付勤務時間割として履行されていたにもかかわらず、被告会社は、平成七年二月四日、原告足立に対し、突然何らの事前協議もなく、被告らの合意によって作成されたところの補勤隊を削除した本件時間割を示し、右を実施するとの通告をして、原告組合との協議義務を無視し続けた。

また、被告公団は、右勤務時間割の内容となる「委託巡回計画実施表」を作成し、被告ら双方ともに右内容において補勤隊を除去した勤務時間割を原告らとの協議を経ないまま強行実施した。

被告らの右行為は、不当労働行為に該当する違法なものであり、不法行為を構成する。なお、本件時間割への変更の強行実施に対しては、原告らが抗議をしたところ、被告らは意を通じて、わずか五日後の同月一一日には右変更をさらに改訂して補勤体制を復活させるという行為に出た。これは、本件時間割への変更が何ら必要性及び合理性がなかったことを意味する。

(二) 被告会社の主張

(1) 原告らは、補勤体制が設定されていた平成七年一月一日付勤務時間割と比較して、本件時間割が補勤体制をなくすものであり、休憩時間について不利益に変更したと主張する。しかし、本件時間割による勤務を指示した時点では、阪神・淡路大震災直後の全拘束時間待機という体制で、そもそも休憩時間の設定自体がなかったのである。このような震災時体制の解消は、被告会社の急務であったところ、平成七年二月三日に被告公団から、被告会社に対する規制誘導業務の発注量を減らすという趣旨の連絡が入った。このため未だ補勤体制を設定することはできないまでも、休憩時間は設定できる状況となったので、被告会社は本件時間割を作成したのである。このように本件時間割は、それまでの休憩時間さえなかった状態を改善するものであって、その目的は正当であり、かつ内容も合理的なものであるから何ら違法なものではない。

また、本件時間割の実施は、前訴和解で確認された補勤体制の確立という被告会社の方針を変更するものではない。このことは、被告会社が、平成七年二月六日以降、さらに震災時体制における被告公団からの規制誘導業務の発注量が減少したので、同月一一日に補勤体制が設定された勤務時間割に変更したことからも明らかである。

(2) 従前、被告会社は、勤務時間割については分会を通じて組合の意思を聞くということで協議をしてきた。平成七年二月四日、従前どおり、分会協議を申し入れる趣旨で堤田が分会長である原告足立に本件時間割を示した。その際、堤田は、被告会社としては、本来の勤務体制に戻ることはまだできないが、休憩時間の設定の目途は立ったので了解してもらいたい旨伝えたところ、原告足立は、補勤体制ができなければ休憩時間はとれない、休憩時間のすべてについて賃金を支払うのでなければ了解できないと回答し、結局、協議はしたが了解点に達しなかったということが堤田と原告足立との間で確認されたにとどまった。続く同月七日にも、堤田及び被告会社第二交通管理部長である田中淑雄(以下「田中」という。)が原告足立に分会協議を申し入れたが、原告らの了解は得られなかった。このような経緯から、被告会社に不当労働行為となる事実がないことも明らかである。

3  争点2(一)について

(一) 原告らの主張

原告足立が本件時間割への変更に対して抗議したところ、被告会社は、「協力しないのなら西淀川へ行ってもらうしかない。西淀川は交通取締業務だから休憩は取れるので文句はないだろう。」等と突然の配置転換をほのめかし、本件配転命令を発令した。本件配転命令は、何らの業務上の必要性及び人選の合理性がないのに、第一交通管理部(四ツ橋交通管理所)における原告組合の唯一の組合員たる交通管理隊員であった原告足立を排除し、前記労働基準法違反の批判を封殺するとともに、本件時間割への変更を強行実施するために被告ら両名が意を通じて行った不当労働行為もしくは権利の濫用として無効である。

(1) 被告会社は、それまで第二交通管理部(西淀川勤務)であった中北を急遽第一交通管理部(四ツ橋勤務)にまわすなどの異常な人事異動をあわせて行っている。

(2) 原告組合は、西淀川勤務の新設に際し、被告会社に対し、労働条件や交通管理隊との関係、人事異動に関するローテーション等について団体交渉を申し入れたが、被告会社は唯一の組合員である原告足立を第二交通管理部(西淀川)に勤務させることはない旨明言し、第二交通管理部(西淀川)に勤務する原告組合の組合員がいないとの理由で右団体交渉を拒否した経緯がある。

(3) 第二交通管理部勤務は、被告らが協議して新設された部署であり、過積載車両の取締を主たる業務とする。交通管理業務とは勤務形態、内容、時間帯が異なるものである。

(4) 被告会社が原告足立になした平成七年三月から同年六月までの賃金カットは、前述のとおり無効な配転命令に原告足立が従わず、配転先で就労しなかったことを理由とする違法なものであるから、原告足立は被告会社に対し、平成七年二月までの三か月の賃金の平均額と現実の支給額との差額相当分(前提事実4記載)の未払賃金の請求権を有する。

(二) 被告会社の主張

(1) 原告足立は、本件時間割について異議を唱えただけではなく、協力できないと述べたのである。被告会社においては、機動業務を二人組で行うことになっており、いつ具体的な指示(勤務時間割)拒否という事態になるのかわからない原告足立を第一交通管理部に在籍させたまま本件時間割を実施するのは困難であった。しかしながら、被告会社においては、交通管理業務の確保及び原告足立以外の従業員の休憩時間の確保との関係から、原告足立のみが了解しないことで休憩時間の確保を遅らせることはできず、本件時間割の実施は急務であった。そこで、被告会社は、業務の混乱を回避するため、業務の性格上、休憩時間中の出動がなく、休憩時間の確保について特段の工夫の不要な第二交通管理部(西淀川)の取締業務に原告足立を従事させるべく、本件配転命令を行った。

(2) 第二交通管理部への人事異動については、交通管理部の従業員全員について順次行うことが予定されていたのであり、被告会社は、取締業務を開始する前からその方針を明らかにしてきたが(現実に、本件配転命令の当時で交通管理部従業員七一名中二七名が、平成八年七月一日現在で交通管理部従業員八九名中三七名が取締業務を経験している。)、原告足立を含め、従業員から異議は出されたことはない。原告足立が本件時間割変更に異議を唱えなかったとしても、平成七年二月七日にそう遠くない時点での配転は十分あり得たことである。本件配転命令当時、原告足立の同期(一期生)のうち、取締業務を経験していないのは六名中三名であった。平成八年七月九日現在では原告足立のみである。

(3) 本件配転命令は、前述のように業務上必要があったのみならず、原告足立に特に不利益となるものではない。第二交通管理部(西淀川)の取締業務は、当初は第一交通管理部(四ツ橋)の巡回業務と同じ被告会社事業第一部の管轄だったので、第一交通管理部(四ツ橋)と第二交通管理部(西淀川)の間での配置転換は辞令書すら出されることなく実施されており、両者の勤務で勤務時間割が多少異なるだけで、基本的な労働条件について就業規則上の差異はない。

第一交通管理部(四ツ橋)も第二交通管理部(西淀川)も待機場所(委託契約上「基地」として指定される。)にすぎず、両者が担当する阪神高速道路の範囲は同一である。また、両者は共に大阪市内の高速道路区域内にあり、六キロメートル程度しか離れていない。

従って、同一労働条件、担当範囲の同一性、両者の距離といったことから、本件配転命令が原告足立に与える負担は、他の企業における配転命令とは質的に異なるというべきであり、原告らの組合活動に何ら不利益はない。

(4) 本件賃金カットは、原告足立が、本件配転命令後、被告会社の指示に従って第二交通管理部での就労をしないために行ったものである。

4  争点2(二)について

(一) 原告らの主張

被告会社は、本件時間割の実施にあたり、原告組合との協議義務を無視して強行したのみならず、原告足立に対し、労働基準法違反が問題となっている交通管理業務から同人を排除する意図で、第一交通管理部(西淀川交通管理所)への配転を強行した。従って、本件配転命令は不当労働行為であり、原告らに対する不法行為を構成する。

(二) 被告らの主張

否認する。

5  争点3について

(一) 原告らの主張

前訴和解後、原告らと被告らは協議を重ね、被告公団は右協議の結果合意に至った内容の「委託巡回計画実施表」を作成、被告会社に交付し、被告会社は、右内容の「1日標準勤務」と題する勤務時間割表を作成し、平成七年一月一日付の勤務時間割の実施に至るところとなった。このように、勤務時間割の変更は、被告公団の了解なしには被告会社が単独でなし得るものではなく、特に補勤体制を削除するという重大な変更は、被告会社のみではなし得ないものである。よって、被告公団は、交通管理業務に従事する交通管理隊の勤務体制につき被告会社に対して指揮命令権を有し、交通管理業務を統括、実施しているといえるから、本件時間割への変更及びその強行実施並びに本件配転命令は、被告らの共謀による共同不法行為といえる。

(二) 被告公団の主張

原告の主張は否認する。

公団は、交通管理業務の勤務体制についての指揮命令権は有していない。「委託巡回計画実施表」は、公団と会社との間で確定した巡回計画の内容を公団大阪管理部管制センターに周知徹底させる目的で、公団大阪管理部交通課が作成する内部資料にすぎない。管制センターでは、無線統制のもと、委託巡回計画実施表に記載する巡回車と常時交信して交通状況等の情報収集と緊急時の指図、連絡を行っており「委託巡回計画実施表」は、被告会社従業員である交通管理隊員の就労を個別に指示、命令するためのものではない。

6  争点4について

(一) 原告らの主張

原告らは、労働条件の向上のための活動をしてきたが、本件時間割への変更の強行実施及び本件配転命令という被告らの意を通じた不法行為によってその存在自体を否定されるに等しい扱いを受けた。右違法行為により、原告らは多大な精神的苦痛を強いられるとともに、多大な労力と費用を費やさざるを得なかった。その損害は、原告組合につき一〇〇〇万円、原告足立につき三〇〇万円を下らない。

(二) 被告らの主張

否認する。

第三  争点に対する当裁判所の判断

一  争点1(一)について

1  原告足立の補勤体制によって休憩時間を確保するよう改善される利益

原告らは、前訴和解条項の(一)(1)、同(2)を根拠に、原告足立には、補勤体制によって休憩時間を確保するよう被告らによって改善される権利、利益があると主張する。

しかし、乙三ないし五及び被告会社代表者藤岡によれば、前訴和解において、原告らから「補勤体制の確立を柱とする改善策を実施することを約束する。」という和解の最終案が提示されたこと、被告会社としては、原告らと合意しなければ勤務時間割の変更ができなければ実際の業務に支障がでると考え、また将来的な人数の増加による補勤体制を採用する必要性の減少の可能性及び効率的な業務運営といった観点から、原告案に応じることはできないとしたこと、このため最終的に補勤体制の確立が被告会社の方針であることを確認するという和解条項になったことが認められる。また、乙四及び乙五によれば、被告公団は、和解の実質的当事者として、原告らと何らかの合意をすることを拒否したこと、このため被告公団については、原告らと被告会社との間に前提事実2記載の和解が成立したことを確認するという条項になったことが認められる。右のような和解条項が作成された経緯及びその文言によれば、前訴和解によって被告らが原告足立ら交通管理隊員に対して補勤体制を確立する義務を負ったと解するのは困難である。

2  勤務時間割の作成、変更について協議をする利益

(一) 前提事実2に記載のとおり、原告らと被告会社との間では、平成元年当時から勤務時間割における休憩時間の確保の問題を巡って団体交渉がもたれたり、訴訟事件(前訴)が起こされたり、その対立は激しいものであったが、平成六年一一月二四日に前記和解条項のとおりの内容で前訴が終了した。

前訴和解には、「(一)(1) 原告らと被告会社は、被告会社交通管理隊隊員の休憩時間中に巡回出動依頼がある情況は労働基準法上好ましくないという点で双方の認識が一致していることを確認する。(2) 被告会社は、前項記載の問題の可及的解消に向けて補勤体制確立を柱とする改善策を提案・実施することを被告会社の方針として確認し、この点については、原告足立及び同原告が加入する全日本港湾労働組合関西地方阪神支部と本和解に引き続き必要に応じて協議することを確認する。」との条項があるが、右文言及び前訴和解に至るまでの休憩時間の確保についての当事者間の対立の経緯からすれば、右和解条項によって、原告らと被告会社とは、少なくとも休憩時間の実質的な確保のため、補勤体制の確立を柱とする勤務時間割の作成について協議することを合意したというべきである。

他方、被告公団については、その和解条項は、原告らと被告会社との間で右内容の和解が成立したことを確認するというものにすぎず、被告公団が前訴和解で右のような内容の協議義務を負担するに至ったということはできない。

(二) 被告会社は、前訴和解において、原告らとの勤務時間割についての協議は、「必要に応じて」行うこととされており、常に協議が必要とされたわけではないこと、ここに「必要な場合」とは、和解時に添付すべきであった勤務時間割の作成(具体的には平成七年一月一日付の勤務時間割)及び和解で確認した補勤体制の確立という被告会社の方針を放棄するような場合に限られるのであって、被告会社が補勤体制の確立という方針を放棄していない以上、本件時間割は右の「必要な場合」には当たらないと主張する。

確かに和解上被告会社には、原告らと「必要な場合」の協議が義務付けられているが、前訴が原告らにとって、休憩時間の実質的確保のためのものであったこと、前訴和解において休憩時間中の巡回出動依頼がある状況が労働基準法上好ましくないことを確認したうえで、その解決のために補勤体制の確立を柱とする改善策の提案、実施について被告会社に原告らとの協議義務を負わせていることに照らせば、前訴和解における「必要な場合」を、補勤体制を設定する勤務時間割(平成七年一月一日付勤務時間割)の作成及び右体制を全く消滅してしまう場合に限定するのは相当でなく、補勤体制に何らかの変動を伴う場合も「必要な場合」として被告会社は、原告らと協議義務を負うとすべきである。そして本件時間割が、休憩時間を設定しながら、補勤体制を採用しないというものである以上、被告会社には、原告らとの協議義務があったというべきであり、被告会社の右主張は採用しえない。

二  争点1(二)、2について

1  甲一〇、一一の一、二、乙一、証人田中、証人堤田、証人簗瀬、原告足立本人、被告会社代表者本人及び前提事実3によれば、次の事実が認められる。

原告足立は、被告会社において分会を結成後、平成元年以降、訴訟や仮処分において和解をしたことはあるものの、一貫して交通管理業務における休憩時間の確保を巡って被告会社と激しく対立してきたのであるが、前述のとおり、前訴において和解するに至ったところ、平成七年一月一七日の阪神・淡路大震災の発生に至った。右震災後、同年二月二五日に通常の取締業務に戻るまでの約一か月間は、被告公団の要請によって、第二交通管理部において第一交通管理部の交通管理業務に編入する形での業務が行われた。被告会社は右震災後の交通事情に対処するため、交通管理部の従業員に対し、休憩時間を含む全拘束時間の待機を命じ、全拘束時間に対する賃金を支払う措置を採ったが、その後、阪神高速道路のある程度の復旧を受けて、休憩時間(ただし、補勤体制は設定されず、出動依頼があり得る)の設定された勤務時間割への変更を平成七年二月三日に決定した後、同月四日に平成七年二月六日付の「1日の標準勤務(災害に伴う勤務時間割変更分)」と題する書面を示して、補勤体制を解消する等の内容を分会長である原告足立に通知した。その際、被告会社は原告足立に対して、震災後の混乱状況はいつまでも続くわけではないのでいずれ補勤体制は復活させるが、今は補勤体制のない勤務時間割の実施に協力して欲しい旨要請したが、それに対して原告足立は補勤体制を解消する本件時間割への変更には応じられない旨回答した。被告会社は、原告組合と本件時間割について協議することなく、同月六日から変更を実施し、平成七年二月七日、原告足立がこれに抗議すると、被告会社の第一交通管理部長であった堤田及び第二交通管理部長であった田中が原告足立に対して、勤務時間割に文句があるのであれば休憩時間の確保されている第二交通管理部に配転する旨内示し、現実に同月九日に右内容の辞令書が交付された(なお、被告会社における定期の人事異動は毎年四月である。)、原告組合は、同日、原告足立から本件時間割への変更及び本件配転命令について連絡を受け、被告会社に対して右問題についての団体交渉を申し入れ、その実施が同月一三日に予定されていたが結局実現しなかった。その後、原告組合は本件時間割への変更及び本件配転命令について被告らに抗議文を持参して抗議をし、被告会社は同月一一日には再び補勤体制を設定した勤務時間割を実施した。

2(一)  右認定事実に鑑みるに、被告会社は、本件時間割への変更の実施前にそれを原告足立に通告したが、阪神・淡路大震災後の緊急時とはいえ、右通告から実施までわずか二日間しかなく、その内容からしても、前訴和解で義務付けられた勤務時間割についての原告足立との協議義務を履行したとはいえない。また、原告組合に対しては実施の通告すらなしておらず、協議は全く尽くされていない。したがって、本件時間割は原告らとの協議を尽くさないまま実施されたものであって、前訴和解によって認められた原告らとの協議義務を潜脱するものである。そして、本件配転命令が原告足立の本件時間割実施に対する抗議を理由にしていることは明かであり、これに前訴和解に至る以前からの原告らと被告会社の交渉経過を併せ考慮すれば、被告会社の原告らを嫌悪する意図は明かであるから、本件配転命令は不当労働行為に当たり、無効であるといわなければならない。しかも、本件時間割への変更と本件配転命令は、被告会社が原告らとの協議義務を無視して本件時間割を実施しようとした一連の行為を構成するものであるから、不当労働行為として一個の不法行為となるものである。

(二)  被告会社は、本件時間割を実施した時点では、そもそも休憩時間の設定自体がなかったのであるから、本件時間割への変更により原告足立に何ら実質的な不利益を課すものではない旨主張する。しかし、本件時間割が作成される以前の震災時体制は、休憩時間が全くないという緊急措置である。本件時間割は、この緊急措置を解除し休憩時間を設定しようとするものであるから、それまでの通常時の勤務体制との比較でその妥当性が判断されるべきである。そして、原告らと被告会社間には、通常時の勤務時間割として平成七年一月一日付の勤務時間割があり、これは休憩時間を実質的に保証するために補勤体制を採用したものであるから、この時間割に比して休憩時間の実質的な保証について何ら配慮していない本件勤務時間割は、原告足立にとって不利益を課すものであるといえる。

(三)  被告会社は、第一交通管理部の従業員の休憩時間を確保するために本件配転命令が必要であった旨主張するところ、前述のように、本件時間割の実施は、前訴和解の趣旨を潜脱するもので、原告足立の抗議は不当とはいえないものであり、その抗議があったからといって、従業員の休憩時間が確保できないとはいえず、原告足立を第二交通管理部へ配転しなければならない合理的な必要性があったとはいえない。また、被告会社は、第一交通管理部から第二交通管理部への配転は順次行っており、原告足立についてもそう遠くない時点での配転があり得たと主張し、証人田中もそれに沿う供述をするが、右主張を前提としても、定期人事異動の時期でもない二月一〇日に配転を行う業務上の必要性を裏付けるものではない。前記認定のとおり、本件配転命令のあった時点では第二交通管理部は通常の取締業務を行っていなかったのであるから、取締業務を経験させるということが何ら本件配転命令の合理性を基礎づけることにはならない。

3  右のとおり、本件配転命令が無効である以上、原告足立が、これに従わず第二交通管理部で就労しなかったことをもって被告会社がなした賃金カットは理由がないから、原告足立は、被告会社に対し、前提事実4記載のとおり右賃金カットにより生じた平成七年三月から同年六月までの未払賃金一〇六万七〇八六円の支払を求めることができる。

三  争点3について

本件配転命令について、被告らが共謀した事実は、これを認めるに足りる証拠はない。

なお、原告らは、本件配転命令についての共謀の事実を具体的に主張しないが、被告公団が被告会社の交通管理業務の勤務体制について指揮命令権を有し、交通管理業務を統括、実施していると主張するので念のためこの点について検討するに、乙一、証人田中及び証人堤田によれば、被告公団と被告会社の委託契約では、巡回する路線、時間帯及びその回数が定められるだけであり、巡回に出動する具体的な人員の選択、休憩時間の設定については被告会社が独自の判断で行っていることが認められる。また、証人簗瀬及び原告足立本人によれば、補勤体制を組み入れた平成七年一月一日付の勤務時間割の作成のための協議が原告らと被告会社とで二、三回もたれたが、そのいずれにも被告公団は参加していなかったことが認められるから、原告らの右主張には理由がないことが明らかである。

四  争点4について

1  原告足立について

本件時間割の強行実施及び本件配転命令という不法行為による原告足立の精神的苦痛の程度を判断するに、本件時間割の変更は、勤務時間割における休憩時間の確保の問題に関する原告らと被告らとの間の長く激しい対立の後に成立した和解に基づいて、平成七年一月一日付の勤務時間割ができたにもかかわらず、これを何ら協議することなく変更したというもので、被告会社の対応は不誠実といわなければならず、また、本件配転命令は、本件時間割への変更に抗議した原告足立に対し、業務上の具体的な必要性が認められないのに、その正当な組合活動を嫌悪してなされた不当労働行為であること等諸般の事情を考慮すれば、原告足立の被った精神的苦痛を慰藉するためには五〇万円を要するというべきである。

2  原告組合について

原告組合は、法人であるから、精神的苦痛を慰藉するための慰藉料請求権は考えられないが、本件請求は精神的苦痛以外のいわゆる無形損害の賠償を請求するものと解しうるところ、前記認定のとおり、被告会社は本件時間割への変更を強行し、これに抗議する被告会社における原告組合の唯一の組合員を別の勤務地に配転することによってその正当な組合活動を妨害したのであるから、無形の損害を賠償する義務があり、その額は、前述の諸般の事情を考慮すれば、五〇万円を相当とする。

3  なお、原告らは慰藉料及び無形損害の他にも、多大な労力と費用を費やした旨主張するが、その具体的な主張・立証がないから、これを認めることはできない。

第四  結論

以上の次第であるから、原告らの本訴請求のうち、原告組合が被告会社に対して不法行為に基づく損害金五〇万円の支払を求め、原告足立が被告会社に対して本件配転命令前の勤務地における労働契約上の地位を有することの確認、不法行為に基づく損害金五〇万円の支払及び本件配転命令後の未払賃金の支払を求める限度で認容し、その余の請求はいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官松本哲泓 裁判官川畑公美 裁判官和田健)

別紙<省略>

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